東大寺の清水公照老の話である。阿弥陀経の中にある「青、黄、赤、白」を示して、「あんた、この中でどの色が好きや」「やっぱり白ですなぁ」「白が好きか。しかし、白が際立つためには他の色がなけりゃアカン。白が表に出るためには、他の色が後ろで支えているのや。好きな色だけ愛でるのではなく、それを支えている他の色にも感謝せなアカン。人は独りで生きられヘン。大勢の人の『おかげさん』で生きている。この青、黄、赤、白はそれぞれに良さがあって、ともに他をひきたたせる『おかげさん』の意味や」と。
私が子どもの頃は、お年寄りに「おばあちゃん、お元気ですか」と声をかけると、「ハイハイ、おかげさんで元気にさせてもらっています。」と返ってくるのが日常であった。そんな生活の中で『おかげさん』精神が育まれ体得していった。
また、失敗や苦しみから立ち返る力(挫折回復力=レジリエンス)も家庭や子ども社会の中で身についた。つまり、人は誰でも挫折する時があり、それを克服することを通してたくましく成長できる。また、困った時、逆境を乗りこえることを通して才能をたくましく出来ることを理解した。
五木寛之氏は、「アサガオの蕾は朝の光によって開くのではない。それに先立つ夜の時間の冷たさと闇の深さが不可欠である」と生き方を説いた。
また、母親によく言われた八代将軍吉宗のことば、「人は困りたる時、うつ向く者は役に立たず、仰向く者が役に立つ」。
現代社会に生きる青少年は、これらのことを生活の中で体験して学び、体得することが少なくなった。国際化、情報化が進展する中で、学校教育だけでは体得不十分なこれらのことを補ってやらねばならない。そんな思いで奈良県国際交流振興会は体験の場を求め、イングリッシュキャンプや海外短期留学を企画・実施してきた。これまで1,200人余の児童生徒が育っていったことを誇りに思っている。
なお、こうした活動が出来るのは、青少年の健全育成ご賛同いただく県内の企業様のご協力、ご支援によるもので、衷心より感謝の意を表したい。
奈良県国際交流振興会理事長 天 根 俊 治